2014年7月9日水曜日

HeroQuest紹介(12) - ナレーティング

●ナレーターの仕事
ナラティブRPGである HeroQuest ではナレーターの仕事は一般的なRPGのゲームマスターのそれとは大きく違う部分があります。 この違いを理解することがとても大切です。 ナラティブRPGのゲームマスターの仕事はプレイヤーと対立することではありません(これはまあ普通のPRGでもそうですが)。 プレイヤーに何ができて何ができないかを伝えることでもありません。 間抜けなプレイヤーを罰したり、 逆に賢いプレイヤーにご褒美を与えることでもありません。 物語の筋書を決めるのも詳細な設定をつくるのもナレーターの仕事ではありません。

ナレーターの仕事はプレイヤーの物語に全面協力すること、 物語が停滞しないように動かし続けること、 物語が説得力を持ち魅力的であるように維持することです。

これらを行うためのナレーティングのコツを紹介してみたいと思います。 と言っても私もまだまだ未熟なナレーターなので大上段にこれがナレーティングのやり方だと教えることはできそうにないので、 ルールブックやその他で紹介されているやり方や経験を元に私なりに説明してみたいと思います。


●ナレーターはストーリーを語らない
一般的なRPGではゲームマスターは舞台やストーリー展開を予め決めておいて、 それに合わせて地図やモンスターやNPC等の数値や様々な仕掛けなどを準備しておきます。 ゲームマスターは準備した筋書から大きく外れると、 せっかく手間をかけた数値情報や仕掛などが無駄になるため、 できる限りこれを避けるのが普通です。 プレイヤー側もそのことを念頭において、 ゲームマスターの考えを読んでその筋を辿るのが礼儀正しいプレイとされ、 そこから外れて勝手な方向に進めるのは無作法とみなされがちです。

ナラティブRPGではここが逆でストーリーを語るのはプレイヤーの役目です。 ナレーターが物語の筋書を決めるのは御法度です。 ナレーターは舞台を準備する時に面白そうな筋書を考えついたりするものですが、 それは最初から捨てるつもりでいてください。 あらかじめ準備したストーリーにプレイヤーを誘導するようなことは絶対にしてはいけません。

単なるストーリー指向とナラティブの最大の違いはこのプレイヤーが物語を作るという点です。 ナラティブRPGでストーリーを語るのはプレイヤーの仕事で、 ナレーターはその物語に対して全面協力する立場です。 通常のRPGに馴れているプレイヤーにはこの点を何度でも説明してあげてください。 それでも最初は何をどう進めていいのかて戸惑うと思うので、 ナレーターは質問などの形でプレイヤーが物語を作るのように促して上げてください。


●「はい」と言おう
このプレイヤーの物語に全面協力するということを最もうまく表現したのが“「はい」と言おう”手法です。 ナレーターはプレイヤーの全ての質問に「はい」と答えてください。
「この塀は登れるかな?」  「はい。 なんとか登れそうです」 
「この家に勝手口はないかな?」  「はい。 あるみたいですね」 
「花鉢の下とかに裏口の鍵を隠してないかな?」  「おお、 よく見つけたね。 探してみると確かに小さな薔薇の鉢の下に鍵らしきものがあるよ」 
「この裏口が突入すると犯人の不意をつけないかな?」  「はい。 多分うまくいきそうですね」
プレイヤーが思いついたことに対して肯定することとにより、 プレイヤー側に物語の主導権を渡してください。 ナレーターとして予め決めておいた設定とかは無視して構いません。 それよりはプレイヤーの話しに合わせるのが重要です。 裏口なんか設定してなかった? いえいえプレイヤーが裏口について語ったのならそれはあるのです。 ナレーターの脳内設定も事前準備もいくらでも変更可能です。 それどころかプレイヤーの物語と公式の世界設定が矛盾するようならば世界設定の方を変えてください。 全面協力というのはそういことです。

ナラティブな遊び方に馴れていないプレイヤーたちは最初は大いに戸惑うと思いますが、 自分たちの作った設定が全て受け入れられるということを理解してもらえれば、 自然と自分たちで物語を作るようになるはずです。


●「はい、 しかし」と言おう
ナレーターの二つ目の仕事は物語が動き続けるように保つことです。 どちらの方向へ物語を動かすかを決めるのはプレイヤーの役目なので、 ナレーターはとにかく動かすことだけを考えます。 プレイヤーの議論が堂々巡りしているようならば決断を求めてください。 何をしていいか全く判らないようならば質問や新しい情報の形で支援してください。

そして、 PCの行為や結果描写が物語の流れを止めてしまいそうな時に使うのが“「はい、 しかし」と言おう”手法です。

時にプレイヤーたちは、 つまらない安易な方法で障害を克服しようとしたり、 せっかくの面白くなりそうな要素を台無しにするような提案をしてくるものです。 このような場合には単に「はい」と答えるのではなく、 「はい、 しかし」を使います。
「この塀は登れるかな?」  「はい。 登るのは簡単そうだけど、 上の方に何か仕掛けが見えるね。 赤外線センサーか何かかな。」 
「この家に勝手口はないかな?」  「はい、 探すとすぐ見つかったよ。 でも大きな木の板が何枚も打ちつけてあって開けるのは大変そうだね 」 
「打ちつけている板だけど頑張れば外せそうかな?」  「はい。 しかし大きな音を立てずに丁寧に外そうとすると、 それなりの工具とかが必要だろうね」 
「この裏口から突入すると犯人の不意をつけないかな?」  「多分いけそうだけど、 犯人グループの中に猜疑心の強そうなのが一人いたよね、 そいつが何か準備してるかもね」
このような工夫により、 プレイヤーの提案を拾った上で、 新たな別の問題へと展開させることにより物語の流れを止めないようにします。


●「いいえ」と言おう
ナレーターの三つ目の仕事は物語が説得力を持ち続けるように保つことです。 魅力的な物語は一貫性を持ちその世界観を維持しているものです。 これを実現するためにはナレーターは時々「いいえ」と言う必要もあります。

例えばファンタジー設定なのに火薬兵器を持ちだしたり、 勧善懲悪物なのにヒーローたちが一般市民を虐殺したら興醒めという他ないですよね。 このような最初に決めた物語の「前提」からの逸脱は阻止しなければなりません。

同様に既に語られた出来事や設定に反するような物語展開を認めてはいけません。 まだ語られておらずナレーターしか持っていない設定やプロットに関してはそちらを変えてしまえば良いのですが、 一旦語られた過去の物語との一貫性は維持しなければなりません。

このように物語が、 いかにも有りえそうな、 信頼できるもになっているかの確認する作業を信憑性テスト(Credibility Test)と言います。 プレイヤーの提案した行為や結果描写がその世界観で可能かどうか物語として納得いくものになっているかを読者の視点できちんと確認するのはナレーターの役目です。 信憑性テストに合格しないようならば「いいえ」といって止めてください。


●シナリオの準備
ナレーターの仕事の中でもシナリオの準備というのは難しい課題です。 ストーリーラインが全面的にプレイヤーまかせなために、 結局はアドリブにならざるを得ません。 そういう意味でベテランのゲームマスターならばアドリブで最初から最後まで全部進めることができるかもしれませんが、 普通はなかなか難しいものです。

ナラティブRPGでは一般的なRPGと違ってストーリーを準備してそれに関連する設定を詳細に決めておくという具合にはいきません。 かといって全てアドリブでは手が回りません。 ということで HeroQuest のシナリオとして以下のような物を準備しておくのが良いようです。
  1. 物語のきっかけ: これは解決すべき問題の準備です。 そして、 それを何故PCが解決しなければいけないかの理由と、 それがPCにもたらされる経緯を決めておきます。 物語の最初は比較的ナレーターが主導権を持って進められるので難しくないと思います。
  2. 物語の終り: どのような条件を満たせば物語が終るのかをある程度決めておきます。 一つだけである必要はなく複数でも構いません。 プレイヤーたちが全く違ったエンディングを指向したりするので役に立たないことも多いのですが、 全然決めずにおくとプレイヤーにアイディアがない時にみんなで途方に暮れることにもなりかねません。
  3. 対立関係: 物語内で誰と誰がどのような理由で対立する可能性があるかを決めておきます。 ドラマは対立と葛藤から生まれます。 これが問題が何故簡単に解決できないかの理由にもなります。 集団かもしれませんし個人かもしれません。 NPC対PCかもしれませんし、 NPCどうしの対立にPCが絡むかもしれません。 具体的な人物ではなく自然の脅威とか法律が立ちはだかるのかもしれません。
  4. 背景の流れ: 実際の物語を作るのはプレイヤーたちですが、 もしPCたちが物語に積極的に関わらなかった時に、 何が起こりどのような展開になるのかをある程度決めておきます。 これは悪い未来を予想させてPCたちの関与を引き出すための仕掛けにもなります。
  5. NPCの設定: 主要な登場人物(NPC)の名前(重要)、 外見、 性格、 人間関係、 得意な事、 欠点などを決めておきます。 敵(やライバル)は欠かせませんし、 潜在的な協力者も必要です。  HeroQuest では他のPRGのように数値的な詳細を決めたり戦力バランスを取っておく必要はないので、 その労力をNPCの性格や人間関係の設定に使います。
だいたい以上のようなものを部品のまま準備してゲームに望みます。 そして事前準備したことに拘らずに物語の展開に沿って使ったり、 使わなかったり、 大きく変更して流用したりします。


●マクガフィン
シナリオの準備はだいたい上記のような感じで済むのですが、 それだけで良いセッションになるかというと必ずしもうまく行くわけではありせん。 良いシナリオの作成には映画や活劇のシナリオ作成術が役に立ったりします。 そういうわけで少し例をあげてみたいと思います。

映画のシナリオ用語でマクガフィン(MacGuffin)という言葉があります。 ヒッチコック監督の言葉なので聞いたことがある人も多いかもしれません。 「それ自体には特別な意味がないけれども登場人物の重大な関心事になっているなっているアイテム」くらいの意味で、 スパイ映画でスパイたちが奪い合う書類がマクガフィンに当ります。 その書類が原爆の設計図なのか大統領のスキャンダルなのかといった内容は重要ではなく、 それを巡って物語を転がっていくことに意味があるものです。

ナラティブRPGのシナリオにおいてもマクガフィンはとても役に立ちます。 マクガフィンの登場により物語が始まり、 マクガフィンの運命を巡ってPCたちの物語が展開して行き、 その意味の消滅によって物語が終わるようにします。 ナラティブRPGはバラバラの指向を持つプレイヤーたちによって物語が発散しがちなのですが、 マクガフィンを導入することにより、 PCやNPCたちの注目を一点に集めてることができ、 シナリオが空中分解を起こさずに、 一つにまとめることができます。


●セットピース
もう一つ別のものも紹介してみます。 同じく映画の用語でセットピース(Setpiece)というのがあります。 これは「あらかじめ準備され綿密に練られた重要なシーン」を指します。 ファンタジー特有の壮大で幻想的な風景なのかもしれませんし、 手に汗握るアクションシーンかもしれませんし、 抱腹絶倒のコメディシーンかもしれません。 とにかく、 その映画を見た人たちの記憶に後々まで残ることを企図したシーンを言います。

ナラティブRPGでもこのようなセットシーンを準備するのは良い考えです。 ありきたりの展開だけではプレイヤーたちの記憶からすぐに忘れられてしまうかもしれませんが、 非常に際だった特徴的なシーンを設けることによりシナリオをより印象深く記憶に残るものにすることができます。

ナラティブRPGのストーリーはプレイヤーがつくるので必ずしも準備したセットピースが使えるとは限りませんが、 プロットではなく単発のシーンだけならば挟み込む余地があるものです。 準備したシーンにPCを誘導するのは避けなければなりませんが、 セットピースの方をプレイヤーたちの語るストーリーに合わせて変更することはできます。


●ナレーターの心掛け
最後になりましたが経験にもとづいてナレーター(とプレイヤー全員)の心掛けるべき点とかを書いておきます。 これは言われるまでもなく当り前の話なのかもしれませんが、 以下の二つはナラティブRPGでは特に重要と感じています。


●世界観の共有
ナラティブRPGを遊ぶ上において世界観の共有というのは非常に重要な意味を持ちます。 例えば海洋冒険小説を読んだり映画を見たりしたことがない人に航海物語をつくれというのは、 とても困難というのは判ると思います。

逆に参加者が全員がよく知っている物語世界で遊ぶのは簡単です。 例えば日本人ならば時代劇の「水戸黄門」で遊ぶのはとても簡単でしょう。 もちろん参加者全員がよく知っているアニメやコミックの世界を舞台に遊ぶのは、 大変遊び易いし面白いはずです。

世界観がわからないと登場人物に何ができて何ができないか、 物語展開のお約束や禁止事項など細かい事がわからないので遊ぶのが難しく面白くもないものです。 通常のRPGでもそういう面はあるのですがナラティブRPGでは特にそういう問題点が出易いので、 参加者の中に世界観に詳しくないプレイヤーがいる場合には、 他のプレイヤーやナレーターで時間をとって十分にフォローしてあげる必要があります。


●公平性
ナラティブRPGの目的は面白いストーリーを語ることなのですが、 当然ならがそれが得意なプレイヤーと不得意なプレイヤーがいます。 そのためにある程度(プレイヤーとしての)活躍に差が出るのは仕方がないのですが、 ナレーターとしてはプレイヤー間の公平性には気を配ってください。 これは結果としての公平性という意味ではなくて、 プレイヤーには平等に物語を語るチャンスを与えるべきという意味です。

放っておくと話しが面白いプレイヤー、 アイディアが豊富なプレイヤー、 ともすれば声が大きなプレイヤーばかりが話している状況になりがちです。 共同作業というのはナラティブRPGの楽しみの一つですので、 あまり話していないプレイヤーがいるようならば他のプレイヤーやナレーターはその人のために時間をとって語ってもらようしてください。 特にナレーターは話を進める前に個々のプレイヤーの意見に十分に耳を傾けるようにしてください。


●最後に
以上で HeroQuest の紹介/解説の連載を終わりにしたいと思います。 ナラティブなRPGに馴染みがない人にわかるよう意図したため冗長になってしまい申し分けないのですが、 ここまで付き合ってくれた人は HeroQuest をプレイヤーとして遊ぶのに十分な情報が伝わっているものと思います。

ナレーターをする人は是非ルールブックを買って読んでください。 考え方やプレイの例が豊富ですし、 とどめの一撃、 離脱、 援助、 危険な賭け、 防御対応、 犠牲の上での勝利、 回復、 知人、 部下、 相棒、 共同体などなど色々な場面で使えるオプションのルールが記載されています。

この記事を読んでナラティブRPGに興味を持った人は Fate系(そういう名前のRPGシステムがあります。 Type-Moonとは関係ないです)とか、 Apocalypse World系などの他のナラティブなRPGを調べててみるのも面白いかもしれません。

個人的にはグローランサに趣味が寄っているので次は HeroQuest Glorantha が発売されたらその紹介を書きたいなとか思っています。 要望があるようなら上記のオプションとかを紹介するのもありかな。 それではまた機会があれば。

《以上》

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